フィクションとノンフィクションの境界線を溶解させる、メタフィクション・サスペンス
【思いっきりネタをばらしているので、未見の方はご注意ください。】
−今日は、ポップカルチャー・レビューサイトを運営されている竹島ルイさんに、大林宣彦監督の『理由』(2004年)についていろいろお聞きしたいと思います。宜しくお願い致します。
「あ、宜しくお願いします」
−この作品は、直木賞を受賞した宮部みゆきさんの長編推理小説を映像化したものでして、もともとはWOWOWのオリジナルドラマ枠『ドラマW』の企画としてスタートしました。放送後の反響を受けて、改めて劇場用映画として公開されたという、なかなか珍しい経緯で生まれた作品と言えます。まず映画を観終わって、どのような感想を持たれましたでしょうか?
「まずは、長尺の内容をコンパクトかつスピーディーにまとめた、その編集スキルに感心しました。よくぞココまでまとめあげた、と」
−なるほど。実際の原作も膨大なページ数ですしね。
「僕は原作は読んでいなかったのですが、100人以上の登場人物が入り乱れているとか、ストーリーが相当ややこしいとかいう話は聞いていましたので、果たしてどのような語り口の映画になるのかな、という興味があったんですよね。インタビュー形式というドキュメンタリー・タッチで組み立てたのは面白いアプローチだと思います」
−原作でも一部インタビュー形式の、ノンフィクションの手法を使っています。
「そうらしいですね。でも、別に原作はメタ構造になってる訳じゃないですよね?そのへんは映画のオリジナリティーかな、と思いますけど」
−といいますと?
「これ、メタフィクション的叙述法による映画ですよね。マンションの一室で殺人事件がおきて、その関係者にインタビューして回るんだけれども、この事件の映画化が決まったというテロップが流れると、その撮影風景が実際にスクリーンに登場してくる。ばっちり大林宣彦監督も映ってますよね。つまり映画内映画というメタ構造になっていて、フィクションとノンフィクションの境界線を溶解させちゃってる…」
−大林宣彦監督はこの作品を実験映画とおっしゃっているそうです。新しい形式のミステリー映画ということでしょうか?
「いや、正直ミステリーとしては底が割れている作品だと思います。素性が分からない人間たちが殺されて、こいつらって結局誰なんだ、みたいな話がノンフィクション的な手法で語られてるにすぎない。殺人の動機もかなり陳腐だと思いますし」
−加瀬亮演じる八代祐司ですね。
「彼は家族なんていう存在を信じちゃいない。疑似家族のなかで長男という役割を擬似的にふるまっているだけです。彼は映画のなかで怪物だとか人造人間だとか、非人間的な存在の象徴として語られますが、別に彼のような人間は今の世の中特別なもんじゃないですよね。その存在のリアリティーを顕在化させたいがために、こんな手のこんだ、メタフィクション的手法を使ったのかな、と思ってます」
−何だがエラそうなことをペラペラ喋ってますけど、「彼のような人間は今の世の中特別なもんじゃない」とおっしゃるのは、竹島ルイさん自身が、家族を全否定している存在だからじゃないですか?
「はい?」
−この映画で語られる家族のありようは、竹島さんの中で当たり前のように存在していることで、だから映画の主題よりも構造的な話に終始しているんじゃないですか?
「な…何を言い出すんですか、いきなり」
−竹島さん自身も八代祐司のゴーストにとらわれた人間なんです。高層マンションの一室で、血がつながっているというただそれだけのことで、家族の一員としての役割を果たしているだけなんです。あなたのような人間に対する警鐘として、この映画は生まれたんじゃないでしょうかね?
「…そ、そんな…」
−本日は、貴重な時間を頂きましてありがとうございました。では皆さん、さようならー。
(聞き手:八代祐司)
- 製作年/2004年
- 製作国/日本
- 上映時間/160分
- 監督/大林宣彦
- 製作/金子康雄、大林恭子
- プロデューサー/戸田幸宏、大林恭子、山崎輝道
- 原作/宮部みゆき
- 脚本/大林宣彦、石森史郎
- 撮影/加藤雄大
- 美術/竹内公一
- 音楽/山下康介、學草太郎
- 照明/佐野武治
- 整音/山本逸美
- 村田雄浩
- 寺島咲
- 岸部一徳
- 久本雅美
- 松田美由紀
- 風吹ジュン
- 山田辰夫
- 柄本明
- 渡辺えり子
- 小林聡美
- 古手川祐子
- 加瀬亮
- ベンガル
- 伊藤歩
- 石橋蓮司
- 宮崎あおい
- 勝野洋
- 峰岸徹
- 裕木奈江
- 中江有里
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