僕の敬愛する映画監督にして作家の森達也氏は、「20世紀以降の戦争は、かつてのような資源簒奪・領土拡大のための戦争ではなく、過剰なセキュリティ意識のための戦争である」という自説を展開しておられる。
映画『シリアナ』を観ていると、自国防衛というお題目を隠れ蓑にした資源簒奪の為の戦争というものは実在するのだなー、と実感させられる。
元CIA工作員のロバート・ベアが発表した告発本『See No Evil(CIAは何をしていた?)』を原案にした本作は、石油利権をめぐる陰謀を描いたポリティカル・サスペンス。
『トラフィック』でアカデミー脚本賞を獲得したスティーヴン・ギャガンが、スティーヴン・ソダーバーグのバックアップを得て初監督に挑戦。
ジョージ・クルーニーを筆頭に、ハリウッドの名だたるリベラル派が出演を熱望したという逸話もあるほど、満腹感のある力作に仕上がっている。
しかし『トラフィック』以上に様々な人物の思惑が交錯しているし、物語も複雑に入り乱れるタコ足配線状態なので、ちょっとでも気を許していると話がさっぱり分からなくなる。
とりあえずお話を整理するとこんな感じ。中東産油国のナシール王子は、アメリカ依存体制から脱却すべく、天然ガスの掘削権を米国メジャーのコネックス社から、中国の企業に移管することを計画していた。
コネックス社は状況を打開すべく、カザフスタンの資源の掘削権を得たキリーン社との合併を押し進めるのだが、それにあたって違法行為がなかったどうかを調査するため、ワシントンから弁護士が送られてくる。
米国寄りの傀儡政権を樹立させたいCIAは、工作員のバーンズ(ジョージ・クルーニー)にナシール王子の殺害を指令するも、バーンズは作戦に失敗し、窮地に追い込まれてしまう。
一方、コネックスとキリーンの合併の影響を受けて、職を失ったパキスタンからの出稼ぎ労働者ワシームに、過激な原理主義を吹き込むテロリストが近づいてきて…。
とまあ、自分で書いていても今ひとつ話の筋が理解できていないんですが、こんな感じで石油利権に絡む人々の物語が、同時並行のアンサンブル形式で奏でられていく。
かつてスティーヴン・ソダーバーグはサスペンス大作『トラフィック』において、「メキシコ編」では粗い粒子の黄色いフィルターを、「ワシントンD.C.編」はブルーのフィルターをかけることによって、観客が物語に迷わないような万全の体制を敷いていた。
しかし硬派なスティーヴン・ギャガンはそんなナンパなやり方は放棄!望遠レンズを駆使したドキュメンタリー的映像設計に徹頭徹尾こだわっている。
しかしその頑さゆえに、圧倒的な情報量を2時間強の上映時間では処理しきれない事態にも陥っており、映画自体が高いリテラシーを有する鑑賞者を選ぶ作品になってしまった。
一般大衆にある事実を敷衍させる、というのが本作の目的でるとするなら、明らかに『シリアナ』はそのプロジェクトに失敗した映画だ。
そもそもシリアナとは、イラン、イラク、シリアが一つの国家になることを想定した、中東再建プロジェクトを指す専門用語のこと(知らん!)。
一般人にはお馴染みのないこのワードに強く反応する者だけが、この映画を楽しむ権利が与えられるようです。
- 原題/Syriana
- 製作年/2005年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/128分
- 監督/スティーヴン・ギャガン
- 製作/ジェニファー・フォックス、ジョージア・カカンデス、マイケル・ノジック
- 製作総指揮/ジョージ・クルーニー、ベン・コスグローヴ、ジェフ・スコール、スティーヴン・ソダーバーグ
- 原作/ロバート・ベア
- 脚本/スティーヴン・ギャガン
- 撮影/ロバート・エルスウィット
- 衣装/ルイーズ・フログリー
- 編集/ティム・スクワイアズ
- 音楽/アレクサンドル・デプラ
- ジョージ・クルーニー
- マット・デイモン
- アマンダ・ピート
- クリス・クーパー
- ジェフリー・ライト
- クリストファー・プラマー
- ウィリアム・ハート
- マザール・ムニール
- ティム・ブレイク・ネルソン
- アレクサンダー・シディグ
- マックス・ミンゲラ
- ジェイミー・シェリダン
- ウィリアム・C・ミッチェル
- アクバール・クルサ
- シャヒド・アハメド
- ソネル・ダドラル
最近のコメント