超社会管理体制による未来世界を描く、『1984年』的ディストピア・ムービー
南カリフォルニア大学の映画学科に在籍中のジョージ・ルーカスが、課題作品として製作した短編『電子的迷宮/THX 1138 4EB』をフランシス・フォード・コッポラが気に入り、ルーカスに資金を提供して劇場用映画としてリメイクしたのが、この『THX-1138』(1971年)。
ジョージ・オーウェルの『1984年』をモロになぞった、超社会管理体制による未来世界を描くディストピア・ムービーだ。
人類は巨大な地下シェルターに押し込まれ、投薬により感情をコントロールされている25世紀。産まれてくる人間は全て人工授精のため、セックスという概念なんぞ存在しない。
しかし放射性物質を扱う技術者THX-1138は、ルームメイトのLUH-3417と激しい恋に落ち、やがて肉体関係を結ぶ。反体制分子と見なされ、当局に逮捕されてしまったTHX-1138は隙をみて脱出し…という粗筋は、鑑賞中は五里霧中。
ジョージ・ルーカスが脳内で創り上げた詳細設計が、ホントに脳内だけに留まっているので、我々観客が想像力を逞しくして物語を補強してあげないと、ストーリーを追いかけられないのだ。
説明描写を極力排したソリッドなストーリーテリング、ホワイトを基調にした無機質な映像設計、磁気テープのコンピュータが支配するレトロフューチャーな世界観。
細かなカットを間断なく入れる編集、カットが替わるたびにBGMも切り替わるというゴダール的音響。「実験映画ですが何か?」と開き直ったような無邪気さは逆に微笑ましくもある。
スキンヘッドの恋人同士が真っ裸で抱き合うシーンでは、ホワイトを背景に人物を極端なアップで捉え、シーンとシーンをゆるやかなディゾルヴで繋いでいる。
フィジカルで滑り気のある有機的運動を画面の無機質性と対照せしめるなど、局部的には才気あふれるシーンもあるが、おしなべて構成力不足と言わざるを得ない。
完成作品を、ワーナー・ブラザースが「何のこっちゃ分からん!」と勝手に上映時間を5分カットしたため、ルーカスがハリウッド・システムを嫌うようになったというのは、有名な話。
後年、彼が『スター・ウォーズ』新三部作のバジェットを全て自分で賄うというインディペンデント映画的製作手法をとったのは、他者に干渉されることなく自分自身で映画をコントロールしたかったからだ。それってこの映画のテーマにすっごくリンクしている。
ルーカスはこの映画に愛着があることを公言している。『THX-1138』は、撮られるべくして撮られた映画なのだ。
とりあえずスター・ウォーズ・ファンは、当局のコントロール・ルームがデス・スター内部と似ているなーとか、銀のマスクを装着した“ポリス”はやっぱりストーム・トゥルーパーの原型なんだろーなーとか、偉大なSF映画の萌芽を探索するだけでも面白いと思います。
《補足》
劇場音響規格、家庭用サラウンド音響システム規格、家庭用ビデオソフトの高品位規格など、音響関連のクオリティチェックを行うTHX社(ルーカスが立ち上げた映像製作会社ルーカスフィルムの一部門としてスタート)の名前は、この『THX-1138』に由来している。
- 原題/THX-1138
- 製作年/1971年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/86分
- 監督/ジョージ・ルーカス
- 製作総指揮/フランシス・F・コッポラ
- 製作/ローレンス・スターハン
- 脚本/ジョージ・ルーカス、ウォルター・マーチ
- 原作/ジョージ・ルーカス
- 撮影/アルバート・キン、デヴィッド・マイヤーズ
- 美術/マイケル・ハラー
- 音楽/ラロ・シフリン
- ロバート・デュヴァル
- ドン・ペドロ・コーリー
- マギー・マコーミー
- ドナルド・プレザンス
- シド・ヘイグ
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