中村佳穂という稀代の才能が凝固した、捨て曲ナシの大名盤
名実ともにオッサンとなり、体力の限界を感じる今日この頃。野外フェスではしゃぐのは疲れるし、おっくうで仕方がない。という訳で2019年のFUJI ROCK FESTIVALも、僕はyoutubeのライブ中継でフェス欲求を満たしていた。
お腹をポリポリ掻きながらボーっとダラ見してたら、突然稲妻が走ったかのように衝撃が走った。中村佳穂のパフォーマンスに圧倒されたのだ。
感度のいい一部音楽リスナーからはすでに注目されていたアーティストだったが、小生は寡聞にして知らず。天衣無縫なヴォーカリゼーションと精緻なサウンドプロダクションに、一瞬でココロを持って行かれてしまった。
プロフィールを拝見するに、「京都精華大学に入学した20歳から本格的に音楽活動をスタート」とあるから、意外と遅咲きのデビュー。それまでは美術大学に進学して、絵の世界で頑張っていこうと思っていたという。
2016年に『リピー塔がたつ』でデビュー。ピアノを前面にフィーチャーした、フィジカルな躍動感に満ちたデビューアルバムだったが、2枚目となるこの『AINOU』(2018年)ではガラリと音像が変化。エレクトロ・ポップに有機的なサウンドがそっと忍び込む、僕好みの音楽にシフトチェンジしていたのである!
インタビューを読むと、2016年にFUJI ROCKでジェイムス・ブレイクのステージを観たことが大きな転換点となったという。
インタビューの一節を引用してみよう。
それまで私が好きだったのは、フィジカルに音がぶつかり合うタイプの音楽、「歌」そのものにパワーがある人だったけど、そうじゃなくて、音数が少なくて、低音がバーッて鳴ってるだけなのに、こんなにかっこいいんだって。そんなの初めてで、衝撃的でした。
“サウンドメイキングを重視した音楽”を追求する旅に出る決意を固めた彼女だが、直感的に2年はかかる、と思ったらしい。
そして彼女は実際に2年という歳月を、焦るでもなく、かといっていたずらに引き延ばすでもなく、じっくりと自分に向き合いながら、一つ一つ音を紡いでいった。
この『AINOU』には、中村佳穂という稀代の才能が凝固している。力強いシンセのリフがシンコペーションするM-1『You may they』から耳は至福、気持ちはフルスロットル状態。M-2『GUM』、M-3『きっとね!』と、ココロハジケル楽曲が並ぶ。
M-8『アイアム主人公』なんて、ほとんどポエトリー・リーディング状態。一定のリズムとコードを刻みながら、主旋律はダイナミックに形を変えて、予想のつかない展開へとどんどん景色を変えていく。どのナンバーにも言えることだが、12音律で表現し得ないような、独特な節回しなのだ。
捨て曲ナシの大名盤だが、あえて個人的なベストトラックを挙げれば、M-11『そのいのち』か。小さな熱狂が次第に渦を巻いて、大きなうねりとなる感動がここにはある。
小生の文章力ではとても表現しきれないので、まずはこの動画を観て圧倒されるべし!
- アーティスト/中村佳穂
- 発売年/2018年
- レーベル/SPACE SHOWER MUSIC
- You may they
- GUM
- きっとね!
- FoolFor 日記
- 永い言い訳
- intro
- SHE’S GONE
- アイアム主人公
- 忘れっぽい天使
- そのいのち
- AINOU
最近のコメント