土着性すらも突き抜けて遥か彼方まで上昇してしまった、文字通り『銀河』的アルバム
6月に傑作アルバム『ケモノと魔法』(2008年)をドロップしたわずか5ヶ月後に、これまた傑作なアルバム『銀河』(2008年)を産み落としてしまった原田郁子。
3月のミニ・アルバム『気配と余韻』(2008年)リリースに始まる、この年の彼女の異常なまでのソロワークの充実ぶりは、一体何なのだ!
僕は『ケモノと魔法』のあまりの素晴らしさに、「今年度ナンバーワンアルバム也!」と6月の時点で勝手に断言していたのだったが、このようなショートスパンでまたもマスターピースを提示されては、二の句を継げなくなってしまう。
幻術的なピアノとアコースティックギターのアルペジオが美しいM-3『波間にて』(作曲/おおはた雄一)、オリジナルよりもシンコペーションを効かせたジャズ・アレンジが楽しいM-5『charm point』も素晴らしいが、何と言っても忌野清志郎とのコラボレーション・ナンバーにして、アルバムタイトル・ナンバーにして、Little Creatures参加曲にして、13分46秒の大作『銀河』がまずスゴい。
波の音をバックに、タッタッタッタとメトロノームのようなカッティング・ギターが鳴り響き、唐突に原田郁子の柔らかな歌声がインサートされる。
シンプルなコードをつまびくギターは悠久の時を刻むがごとく円環し、清志郎の中性的なコーラスが楽曲に色艶を与える。中盤からボディパーカッションが加わって有機的なリズムをつくり、極端に音数の少なかったサウンドは、終盤になると一気にカラフルな装いを見せて、怒涛のアウトロへと収斂していく。
「清志郎さんにいただいたデモ音源があまりにも良すぎて、わたしもZAKさんもクリーチャーズのみんなも完全にヤラれちゃったの。それで、一度リハーサルをした時はもっとバンドっぽいサウンドだったんだけど、持ち帰って聴いてみて、もっと歌の持ってる世界を音にしなくっちゃと思って。それでもう一回まっさらから、“みんなで銀河を作ってみよう“ってアレンジしていきました。原曲に対する愛情を私たちなりに表現したいという思いも込めて」
(CD Jpurnalのインタビューより抜粋)
この至極のサウンドスケープには、ただひたすら圧倒されっ放し。前作『ケモノと魔法』が、アニミズム的神秘主義が織り込まれた呪術的なアルバムとするなら、本作はその土着性すらも突き抜けて、遥か彼方まで上昇してしまったかのような、まさに『銀河』的なアルバムである。
2つのアルバムのリリース期間が極めて短かったことから、ややもすればRadioheadの『Kid A』(2000年)に対する『Amnesiac』(2001年)のようなアウトテイク・アルバムと考えてしまいがちだが、明らかに『銀河」は過去の作品とは異なるポジションに位置している。
本作の共同プロデューサー兼エンジニアを務めているのは、フィッシュマンズのプロデュースも手がけていたZAK。
奔放なインプロヴァイゼーション、自由を謳歌するような偶発性を大切にしていることは、彼のインタビューからもうかがい知れる。ミスタッチすらも、演奏が素晴らしければ「神様からの贈り物」として許容し、CDという名の記録円盤装置に閉じ込める。
「喜びにあふれた音」、とZAKはこのアルバムを評して語った。当たり前に思えるようなそんなサウンドは、商業ロックが鳴り響く世の中で、なかなかお目にかかることはできやしない。
2008年のフジロック、ホワイトステージにて、僕は原田郁子のステージを見た。彼女の笑顔をみているだけで、このヒトは音楽の神様が下界に遣わした天使じゃないかという気がした。
そのとき彼女は「清志郎さんと一緒につくった曲です」とを『銀河』を披露。夏の日差しが強かったのになぜか涼やかなステージだったのは、この楽曲がホントに観客を宇宙空間に引き連れていったからかもしれない。
- アーティスト/原田郁子
- 発売年/2008年
- レーベル/コロムビアミュージックエンタテインメント
- 銀河
- 満ち欠けて なお 響く もの (instrumental)
- 波間にて
- ある かたち
- charm point
- 遥か より 彼方 へ
- 青い闇をまっさかさまにおちてゆく流れ星を知っている (blue darkness)
- ミソラ
- 約束の花
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