渋谷系もジャズもシティ・ポップもコンパイルした、土岐麻子・入門編
ミュージック・シーンにおける土岐麻子の立ち位置は、’08年後半あたりから大きく様変わりした。
NISSAN「TEANA」CMソングに『Waltz For Debby』が起用されたり、 ゆめタウン広島CMソングに『BIRTHDAY CAKE』が起用されたり、ユニクロ「メリノウール」CMソングに『How Beautiful』が起用されたり(おまけに本人までもが出演!)、怒濤のタイアップで知名度はうなぎ上り。
くるりの20枚目のシングル『さよならリグレット」にゲストコーラスとして参加するなど、ミュージシャンたちのミューズとしても絶賛活動中。要は彼女、いまノリにノっているんである。
岸田繁、さかいゆう、松本良喜、堀込泰行といった豪華メンツを迎えて、満を持してリリースした彼女の3rdアルバム『TOUCH』(2009年)は、「っていうかCymbalsってナニ?」という、かつての彼女を知らないヤングジェネレーションのリスナーをもとりこんだ、「土岐麻子・入門編」というべき内容。
M-1『Superstar』に代表される渋谷系な土岐麻子、M-3『Waltz For Debby』に代表されるジャジィな土岐麻子、M-7『milin’』に代表される70年代シティポップな土岐麻子。もう「彼女の守備範囲を全部コンパイルしました」って感じである。
まあビル・エヴァンスの名曲『Waltz For Debby』をカバーしちゃうというラディカルな試みもスゴイが、それを易々と歌えてしまう彼女もスゴイと思う。
ヴォーカル・ナンバーを想定して作られた曲じゃない訳だし、音符の上り下がりも激しいし、これ歌うの相当難しいですよ。しかしながらパステルカラーのたおやかさをもった歌声で、まるで既成曲のごとく軽やかに自分のモノにしてしまっている。
このアルバムを製作するにあたって、彼女は「まだ見ぬリスナー=お茶の間に届けたい」という気持ちをもってレコーディングに臨んだそうである。もってまわったような言い回しではなく、よりストレートに響く直接的なリリックに変化しているのも、その表れか。
急速にポピュラリティーを獲得したアーティストとしての自信が付加されて、土岐麻子の音楽世界はより豊かさと深みを増した感がある。
- アーティスト/土岐麻子
- 発売年/2009年
- レーベル/エイベックス・エンタテインメント
- SUPERSTAR
- How Beautiful
- Waltz for Debby
- FOOLS FALL IN LOVE sings with 堀込泰行
- ホロスコープ
- BIRTHDAY CAKE
- smilin’
- ブルー・バード with air plants
- Let the sunlight in
- ふたりのゆくえ
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